嘉陽層巡検 [名護市の東海岸(名護市天仁屋〜バン崎)にかけて]

  地形図 2万5千分の1地形図 天仁屋
  [注意] 満潮時や波の荒い日は,危険で,バン崎まで行けない。
  参考文献 [参考1]自然景観の読み方8 日本列島の生い立ちを読む 斎藤靖二著 岩波書店
         [参考2]シリーズ沖縄の自然5 琉球弧の海底 氏家宏著 新星図書出版
         [参考3]新版地学教育講座6 化石と生物進化 地学団体研究会編 東海大学出版会
     

 
(1)タービタイト 海底にはつねに泥が少しずつ降り積もっています。また,河口付近には多量の砂が運ばれたまっています。その多量の砂が,地震などをきっかけに雪崩のように落ちて深い方へと流れ下り,海底の巨大な峡谷を流れ下っていって,平らな海底にでると,川が山地から平野部にでたときに扇状地を作るように,海底扇状地をつくることになります。つまり,もともとあった泥の地層の上をおおって砂の地層がつくられます。このようなことが繰り返されると砂泥互層が形成されていきます。[参考1より]

   
   タービタイト堆積環境 [参考1より]

 この雪崩のような現象を”乱泥流”といい,できた堆積物を”タービタイト”といいます。こうした激しい流れには海中での運搬力として重要で,流れ落ちてきた砂は下の泥を削り込んだり,より粗い粒が先に沈殿し,次第に細かな粒が沈殿してできたグレーディング(級化)や平行な葉理といった堆積構造が見られたりします。[参考1より]

  
   タービタイト堆積構造[参考1より]  
  
      

 嘉陽層砂岩泥岩互層(タービタイト),写真中ハンマー付近右(砂岩)から左(泥岩)へ級化構造が見られる。
特に,泥岩(黒色部分)の左側砂岩との境界部が,右側に比べシャープであることに注意。[地図bP]

     
 大小実に様々な,角ばった,大きいものでは地層面に沿つてはがされたような形を示す黒色泥岩が密集した,一種の礫岩。このようなタイプの礫岩は,先に堆積していた地層が一挙に削られ運ばれてきた砕屑流堆積物の一種である。このレキ層中からは,中期始新世(5000万年前)の貨幣石が発見されている。[参考2][地図bP]
 
    
 砕屑流堆積物が下位の砂岩層を削っている。砂岩の層理と砕屑流堆積物の関係に注意。[地図bQ]

(3)地層の逆転 嘉陽層は地層が逆転している部分が多く見られる。地図bP,2では,地層が逆転している。タービタイトの堆積構造から推定される堆積時の上位の方向と,見かけ上の上位が一致しない[地図bP]。また,見かけ上,下位にある砕屑流堆積物が見かけ上上位の砂岩(層理)を浸食状況を観察すると地層の逆転が判明する[地図bQ]。  

(4)生痕化石 砂岩・泥岩互層の地層面には,規則正しい渦巻きや蛇行・網目などの模様が見られることがある。これは,次の乱泥流が発生するまでの間,海底に生息した生物の生活痕であり,深海底を正体不明の生物がはいまわった跡である。乱泥流が堆積するときに砂岩がその窪みを型どり,残ったものである。従って,比較的薄い砂岩層の底面に残っている場合が多い。

   
      生痕化石と環境[参考3]
 
 
   
 嘉陽層に見られる生痕化石,砂岩層の底面に凸状に現れている。このことからも,地層の逆転が推定される。[地図bP]
 
(4)地層の褶曲1&断層 砂岩優勢互層に見られる大規模な褶曲。いずれの褶曲も南側に倒れ込んでいる。
 タービタイトの級化構造や生痕化石などによって,地層の上下判定をしてみよう。今まで,地層の逆転がなぜ起こったか考えるヒントになる。

           [地図bP手前100m付近]
 

         [地図bR]

 砂岩優勢互層では,砂岩が曲がりにくいため(流動性が小さい),規模の大きな褶曲が発達し,急角度で折れ曲がり倒れ込んだ部分で,地層の逆転が発生する。しかし,褶曲の規模が大きいため,小規模な露頭や露出状況の良くない場所などでは,地層の逆転している原因が分かりにくい。

(5)砂泥薄互層と褶曲2 地図bS付近で,嘉陽層の岩相は大きく変わる。bSより北側では,砂岩優勢で単層の厚さも厚かったが,南側では砂泥互層の単層の層厚は薄くなり(薄層化),泥岩の割合が増加する。
 
  
 岩相がこのように変化すると,細かな褶曲が発達する。これは十分に固結する前の泥岩層が柔らかく,砂岩層と砂岩層間で,潤滑剤のように働き,細かい褶曲が発達したものと推定できる。また,褶曲の軸付近で泥岩の層厚が厚くなっている。これは泥岩に流動性があり,流動性の少ない砂岩が折れ曲がったとき発生した隙間に泥岩が流動したためと推定される。
 
 (6)ビーチロック