はじめに
この記事は『沖縄戦における米軍グリッドの復元』シリーズの追加情報です。
論文『沖縄戦における米軍グリッドの復元2』を作成する際、ChatGPTの査読で次の指摘を受けました:
“仮定の理由づけ:「北緯25.5度を仮定」「127度の基準経線」といった仮定の部分で、さらに一文程度の背景や根拠を加えることで、精度や妥当性が伝わりやすくなる。”
これを受け、『沖縄戦における米軍グリッドの復元』(2023年10月29日公開)では、日本本土で135度と143度の8度間隔で基準経線が設定されていることを参考に、沖縄地区の基準経線を東経127度(沖縄島と久米島の間を通過)と仮定しました。この仮定に基づき、4桁の米軍グリッドとの矛盾がないことを確認し、基準経線127度は早い段階で決定できました。一方、基準緯線については、日本本土で北緯40.5度が使用されているという情報があるものの、沖縄地区で何度が採用されたか明確な情報はありませんでした。
最大の課題:基準緯度線の設定
基準緯度線を何度に設定するべきかは、今回の研究の重要な課題でした。この問題を解決するために、以下の仮定を検討しました。
- 北緯25.5度を仮定
本土版の基準緯線(北緯40.5度)から15度南下させたパターンです。この仮定の理由は以下の通りです:
基準経線と基準緯線の交点(原点)の座標がX=1000kyd、Y=2000kydとなる。
基準経度間隔(8度)は赤道付近で960kydとなるため、X=1000kydと設定すれば負の座標を避けられる。
基準緯度線間隔(15度)は1800kydで、Y=2000kydの設定により負の座標を使う必要がなくなる。
この仮定は『沖縄戦における米軍グリッドの復元』(2023年10月29日公開)で採用しました。
- 北緯26.5度を仮定
沖縄島の中央緯度を基準緯線として設定したパターンです。1950年代以前のアメリカ地図で多用された多円錐図法では、地域ごとの中心緯度を基準緯線とする傾向がありました。そのため、沖縄地区では北緯26.5度を仮定しました。ただし、この結果は内部検討用であり、公開していません
- 北緯15.5度を仮定
赤道付近から15度程度北上させたパターンです。フィリピンから台湾を含む範囲の中心となる北緯15.5度を基準緯線と仮定しました。この仮定は『沖縄戦における米軍グリッドの復元2』(2024年10月31日公開)で採用しました。
以上の3ケースにおいて、それぞれズレもなく、米軍グリッドを復元図ることができました。基準経線を共通の東経127度とすることで、目視による精度確保レベルであれば、投影によるズレはなく、基準緯度線の微調整で、グリッドIDは生成できるようです。
新たな情報:米軍グリッドマップの記述
様々な根拠に基づいた基準緯線の値についても、グリッドマップは生成可能であるということであれば、米軍グリッドマップ作成当初の方法に従うことが最も説得力があると考えられます。そこで、米軍グリッドマップの原資料に記載されている説明を再確認しました。幸い、高解像度で文字が判別可能な地図を入手していたため、再検討を行いました。
その結果、1000ヤードグリッドの基準について「BAND Ⅲn, ZONE “C”」と明記されていることが判明しました(図-1参照)。
ZONE “C”:基準経線は東経127度。
BAND Ⅲ:基準緯線は北緯40.5度に相当。
さらに、BAND ⅡとBAND Ⅰの基準緯線がそれぞれ北緯30度、北緯20度付近であることも確認されました。
基準緯線北緯40.5度の合理性
一見すると、沖縄地区(緯度26~27度程度)に対して北緯40.5度を基準緯線とするのは離れすぎているように思えます。しかし、以下の理由から採用の合理性が示唆されます:
基準緯度線間隔:16度間隔は1920kydに相当し、北緯24度程度まで負の座標を使う必要がない。この範囲内であれば、基準緯線北緯40.5度が適用可能。
運用上の利便性:広い範囲で共通の位置座標コードを利用できることで、作戦立案や戦闘管理が容易になる。
本土決戦への連携:沖縄戦が本土決戦を想定した作戦の一部であると考えると、共通ルールの座標系を採用することは合理的である。
以上より、1000ヤードグリッドの基準について「BAND Ⅲn, ZONE “C”」が明示されているのでは、基準緯線北緯40.5度が正解であると結論付けられます。
基準緯度の調整
『沖縄戦における米軍グリッドの復元2』と同様に、まずは目視による基準緯度の調整を行った。その結果、北緯40.464度という値を得た。この段階では、数十メートル程度の差が確認された。
次に、最も位置精度の高い『沖縄戦における米軍グリッドの復元2』で作成した1000ヤードグリッドに合致するよう、さらなる微調整を実施した。その結果、基準緯度は北緯40.46360度に決定された。この段階で、誤差は約10センチメートル以内に収めることができた。
以下が、微調整後に設定されたプロジェクション定義である:
+proj=poly +lat_0=40.46360 +lon_0=127 +x_0=914398.53074444 +y_0=1828797.06148888
+ellps=clrk66 +towgs84=-146.336,506.832,680.254,0,0,0,0 +to_meter=0.9143985307444408 +no_defs
この調整により、北緯40.46360度を基準緯線としたプロジェクションが、沖縄戦における米軍グリッドを生成する方法であると結論した。
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